Lively Motion

 


はぁー・・・
溜息が白くなる。もうすぐ12月。
冷たい風、ずっと太陽の覗かない空。
今の星矢の心を十二分に演出してくれるこの風景が憎らしい。
あれは、喧嘩だったのか。むこうもこっちも悪気はないんだ。きっと。
どちらも心の支えを必要としているだけだったんだ。

ずっとこのまま変わらず時は過ぎていくのだと思っていた。
けれども毎日は少しずつ変化していく。


― 昨夜のこと


「星矢、最近、元気なかったみたいだったけど、もう大丈夫なの?」
星矢と沙織はいつの間にか部屋に二人きりになってしまった。
そして訪れる気まずい空気。

二人とも何を話せば良いか分からないところ、沙織がやっと会話をしようと口を開いた。
「えっ、あぁ、あれは俺が一人で落ち込んでただけで・・・瞬に話したらあいつの方が良くわかってたことだった」
「私には、話せないようなことだった?」


― 平和になって自分はどうしたら良いのか分からない。・・・なんて沙織さんには言えない。
「私じゃ役不足だったかしら。いつも守ってもらってばっかりいて頼りない私じゃ」
「そんなことは絶対にない!!あんたにはそんなこと絶対言って欲しくないっ」


― 泣かせてしまった。


「瞬の方が適確なアドバイスをしてくれるものね」
「俺の話聞いてたのか?」
「聞いてるわ」
「そんなに、被害妄想になるなって」
「なってないわよ!!」
それから言いたいことー聞いてほいしいことーはたくさんあったハズなのに、何にも言えなくて。
そのまま星矢は帰ってしまったのだ。

あれじゃあ、なんか俺が悪かったみたいにも見えなくもない。あんなところで泣かれたら。
涙は時に女の武器になる。俺は悪くない・・・はずだ。
瞬に相談してみたのはなんとなくで、あそこに紫龍がいたら紫龍に言ってたと思う。それなら、また違う答えが返ってきたんだろう。
いつも喧嘩ばかりしていた。どっちも意地っ張りで素直になれない。
ただ、昨夜は素直になりすぎてしまった。疲れているせいもあった。

 

「星矢には悪いことをしたわ。星矢は何も悪くないのに」
沙織は朝食も食べず半日ベッドの中にいた。久しぶりに泣いてしまったので目が腫れてしまった。
情けない。
昨日のことは、自分が泣き出してしまってからはよく覚えていない。
いつの間にか星矢はいなくなって、瞬や氷河、紫龍がどうしたんだ・・・と。
何であんなふうになったか糸をたどっていってみた。


「みんなに・・・置いていかれてるみたいで恐かった」
それが答え。
「言い訳に聞こえるけど。それが私の答え」
今日謝らなきゃ。今すぐ。


沙織はベッドから飛び起きた。すぐに外に出る準備をして・・・。
「辰巳。ちょっと出て来るわ」
「では私も一緒に。今車を出します」
「結構よ」
一人で行かなきゃ意味がないじゃない。
「行けません。もしものことがあったら」
「今日だけは特別」
沙織は靴を履き替えると走って飛び出した。
久しぶりに走った。なかなか気持ちが良い。
お屋敷から離れたようなところで走るのはやめた。
そこはいつも車の中から見ている風景とは違っていた。


― 時間がゆっくり進んでる。それでも私はこの中には入っていけない・・・。

星矢も沙織の元に向かっていた。
昨夜のことをもう一度ちゃんと話してみようと思った。
大通り。交差点の長い信号待ち。
「雨降るかな」
空はどんよりした厚い雲。そこに、突然雷鳴が響いた。


― 雨が降り出す前に仲直りしたい


ふと、星矢はそんなことを思った。
信号が青に変わった。一斉に人が移動していく。
星矢は下を向いて歩いていた。そして、沙織も下を向いていた。
そのとき何故か星矢は顔を上げた。
「沙織さん!?」
人の流れには逆らえないもどかしさ。沙織は気づかなかった。
そのまま本来自分の行きたかった方向にきてしまった。無常にもそこで再び赤に。
信号というものはどうしてこう、けったいな物なのか。
「沙織さーん!!・・・気づけって」
そして運動会のリレーのように星矢は青になったとたん誰よりも早く走り出した。
多分そんなに遠くまでは行っていない。そうじゃなくても聖闘士なら追いつく。
「いた!待って」
沙織はまだとぼとぼ歩いていた。


「沙織さん」
「え・・・」

  
星矢は沙織の右手を掴んだ。その反動で沙織は星矢の方に振り返る。
「星矢」
沙織は驚いたがそのあとそれは笑顔にかわった。
魅力的だった。気づかないうちに安心できないほどに、キレイになっている。
一緒に顔がほころんだ。
沙織はなんだかすっごく嬉しくて星矢を抱きしめた。
五人の中でもそんなに背の高くない星矢でもやっぱり沙織よりは大きくて。


「星矢。昨日はごめんなさい。私あなたに置いていかれそうで恐かったの。あなたと、あなたが生きているこの世界があることで私は今、生きていることを感じていられるの」 


― 沙織さんに会って言いたいことたくさんあったのに、何で、言葉に出来ないんだ?
だから、恋は不思議なものなんだ。
ごめんなさい・・・よりもっと、もっと伝えたかった言葉。心から、

   

 


「ありがとう、星矢」

 

 

 

END

 

by あけまさま  


 

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