さおりんといっしょ

 

 ・・・・・眠れない夜・・・・・





 ・・・ 深夜 ・・・

 薄暗い部屋の中。
 少女は、かつて誰一人として聞かせたことのない。
 切なく、それでいてどこか甘えるような、微かな悲鳴を上げていた。


「・・・・・!」
「・・・・・」

「・・・・・あっ」
「・・・・・」

「・・・!、あん」
「・・・・・」

 自分の手のひらが、緊張で汗ばむのがわかる。
 手のひらだけではない。さきほどから声にならない声を上げるたびに、身体全体が緊張し、痺れたように感覚が遠のく。
 しかし、自分の間近にいる少年が、何かを自分に囁くたびに、意識を集中しようとするのだが。
 すでに明確に思考することはかなわなかった。


 少年は、時折そんな少女の様子を覗くように伺いつつも、決してその手を休めるこ
とはない。

「はぁ・・・・・・」
「・・・・・」

「あッ・・・は・・・」
「・・・・・」

「あ・・やぁ・・・」
「・・・・・」


 どのくらい経った頃からだろう・・・
 少女の声に余裕がなくなり、切ない声はむしろ驚愕と拒絶の色を濃くしてゆく。



「あ・・だめ、せ・・やぁ・・・あぁ・・」
「・・・だめだよ、沙織さん」

「ああ・・・いやぁ・・・」
「・・・沙織さん」

「・・・そんな・・・あぁ」
「・・・・・」

「・・・あ!、だめッ・・いや」
「・・・・・」

「おねが・・い・・・・ん・・」
「沙織さんは、ここが弱いんだね」

「・・・だ!だめぇ・・・」
「・・・まだまだだよ」

「・・・・・あぁ・・・」


 しかし、いつしか拒絶の声音は諦めともつかぬ儚い声へと変わってしまう・・・

 儚くも、甘やかで、蜜のようにとろける声へと・・・


 少女は解っているのだ。
 驚愕も、拒絶も、そして諦めも、
 それらは決して自らの本意ではないことを。
 この少年が愛おしい。
 この少年と、いまこの瞬間。こうしていられることは、何よりの喜び。

 ・・・そして。
 この少年の望みを、願いを、限りの無い無垢な欲望を・・・
 少女にだけ向けてくれるこの瞬間を、一体どれだけ渇望したことか・・・
 
 狂おしいほどに眠れぬ夜を過ごし、願い続け、待ちわびた二人だけの・・・


 ・・・それは、他の誰にも渡すことのできない、少女だけの悦び。

「・・・・・!、あ、ああぁ・・」
「・・・いいかい、沙織さん・・・」

「んん・・・あ・・・あん」
「・・・いいね?」


 少年の何かを確かめるような声。
 その囁きに我を忘れたかのように・・・
 まるで何かに縋るように・・・
 少女が震える声で、堪えていた声を口にする。


「あ、あぁ・・・せ・・や。せいや、星矢ッッ」
「・・・・・」


 ・・・少年の漏らす、いたわりの篭った囁きが。
 身も心も疲れているはずの少女には、たまらなく嬉しく。
 少女は、・・・いま一度、少年の愛情を身体の奥底で、至福とともに感じていた。
























ばたん!!!

「「「「ッッいい加減にせんかぁッッ!!!!、ふたりともッッ!!!!」」」」


「「うわッ!(きゃ!)」」


「いったい、いま何時だと思ってるんだ!」
「こんな夜中に、おかしな声を出して!」
「少しは他人様に気を使わんか!」
「眠れないじゃないか!」


「「・・・・・・・・・・ご、ごめんなさい・・・」」


「まったく、こんな夜中に・・・」
「二人そろって・・・」
「いちゃいちゃいちゃいちゃ・・・」
「これは、もう没収!!!」

「「ああぁーーーーーッ!」」


「明日がたまの休みだからといって・・・」
「今時、TVゲームを一晩中やるなんて・・・」
「仲がいいのはわかるけど・・・」
「・・・明日は二人ともバツ当番だからね・・・」


「「・・・・・はい」」







城戸邸別館・・・。

 住人達や、城戸邸に働く人々から「離れ」の愛称で呼ばれるこの建物には、現在6人の人物が住んで居る。

 現城戸家の当主であり、世界に名声を馳せる「グラード財団」の総帥、「城戸 沙織」。

 以下、「一輝」「紫龍」「氷河」「星矢」「瞬」。


 同居にあたり、紆余曲折はあったにせよ、現在はおおむね良好な共同生活が営まれている。

 しかし・・・

 誰が、どこを、どー見ても。淑やかさと可憐さを隠すことは出来ない「沙織」・・・
 誰が、どこを、どー見ても。無茶、無理、無鉄砲は死んでも治らない「星矢」・・・


 そして、一輝、紫龍、氷河、瞬。


 我らが愛すべきお嬢様「さおりん」と、愉快な仲間たちの明日はどっちだ?

   END

 

 

 

by G’さま




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