Hot・Happy・Morning



もうすぐそこに春の気配を感じさせる二月の朝。

沙織が目を覚ますと、寝室のドアの向こうから賑やかな笑い声が聞こえてきた。

声の主が誰であるか彼女にはすぐに分かった。廊下を歩きながら談笑している相手は姉の星華だろう。


(星矢……)


ベットの暖かい羽毛布団ににくるまりながら、白湯を飲んだ時のように胸に広がっていく暖かな気持ちを温める。

ハーデスとの聖戦の後、星矢と星華の姉弟は城戸邸に住んでいる。

「ヨットハウスに住む」

と言った星矢と、

「星の子学園で働きながら住まわせてもらうわ」

と言った星華のふたりを、沙織は必死の思いで引き止めた。


――ホームドクターと住み込みの看護婦が屋敷にいるから、戦いで傷付いた星矢には屋敷に住んだ方がいい。

――あなた達はおじい様の実の子供なのだから、屋敷に住む権利がある。


様々な理由を並べ、彼等を屋敷に引き止めた。

だが、その並べた理由の中には沙織の本心は入っていなかった。


――星矢と、好きな人とずっとそばにいたい。


そして、こうも思っていた。


――アテナと聖闘士という役目が終わった今、星矢と私を繋ぐ鎖は城戸光政とこの屋敷しか無い……。


しかし、去年のバレンタインに沙織は思いがけない絆と幸福とを手に入れた。


「沙織さん、好きだ」


バレンタインチョコレートを渡した後に、改めて告白した彼は照れてよく熟したトマトのように真っ赤に

なり視線をそらしてしまった。

「私も星矢を好きよ」

と彼女はまた泣いてしまった。

アテナの時には得られなかった幸せ……。

それを彼女はベットの中で噛み締めていた。

しばらく目を瞑って余韻に浸った後、セットされたタイマーが点き暖り始めた室内へとベットから降りた。

出窓に置かれた鳥かごの中の白梟のニケが気配を感じ飼い主を見上げた。頭を軽く撫

でてやると、夜行性の鳥は気持ち良さそうな寝息を立て始める。

クローゼットを開けて、純白のマーメイドラインの足首まである長袖のロングワンピースを取り出す。

以前に初めて着た時、星矢が沙織の姿を見て一瞬目を見張った後に

「キレッ……!」

と言いかけてまたトマトちゃんになった服である。

シクラメンピンク色をしたシルクのパジャマから着替えると、アンゴラのもこもこと

した暖かい感覚が全身に広がった。

その暖かさがより幸福感を倍増させる。


(いつまでもこの幸せが続くといい……)

沙織はそう願いながら寝室から廊下につなぐドアを開けた。




END

by 野菊さま   




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