続 花火大会 

 

  河原に吹く風は強く、花火の煙を追いやってもくれるが、沙織の浴衣の襟足あたりからいいにおいを運んでくれて、

星矢はうっとりと夢見心地になっていた時だった。

沙織が小さく頭をもたげて、唐突にささやいた。

「ね、本当?」

「何が?」

「・・・この時間のために生きるよ・・・。」

そうつぶやいた沙織に、星矢は目をみはって、見返ったが、いたずらっぽく視線をはずす沙織がいて、星矢は耳を赤くしながら、そっぽを向くしかなかった。

「本当なら、約束、してくれる?」

「約束が要るか?」

「・・・何があっても、生きてくれるって。」

「・・・・・ああ。」

「・・・本当に?」

「ああ。・・・何?不安になった?」

「うん・・・。幸せで。」

「変な奴。俺が沙織さんから離れるわけがないだろ?」

「・・・アテナの聖闘士だから?」

「そうだ。」

「・・・意地悪ね。」

可愛いくすねる沙織の肩を抱いて、星矢は花火を見上げた。

「こんな時間のために戦える。けど、俺はこんな時間のために生きてるんだ。」

「星矢・・・。」

一際真っ白な花火が真昼のように輝いて、くっきりと二人を照らした。

抱き合う二人はキスしていたかもしれないが、それと確認できるには花火の輝きは短すぎたし、周囲に座す人々はそのフィナーレの見事な花火にくぎ付けになっていて、気付くはずもなかった。

 

フィナーレの花火が終わると、会場に特設された明かりが点り始め、大勢の人が動く気配がしだした。

「人ごみにのまれないうちに、退散しよう。・・・つかまって。」

沙織は星矢の首にしがみつくと、強烈な風を感じたと思った時にはもう、城戸邸の近くまでたどり着いていた。

光速の速さを体現したセイントならではだ。

行くときも夜店通りのそばまでは、こうしてきたのだ。

そこから、邸までぽつぽつ歩く。終始無言の二人だったが、手はしっかりと、握っていた。

「部屋まで送るよ。」

城戸邸に着くと星矢はまた沙織を抱き上げて、飛んだ。

部屋の窓から入室する、アクロバティックな送迎だが、沙織も随分慣れてきていたし、なにより、星矢の胸の中にあっては恐怖を感じることができない。

ベランダに着地すると、しばらく抱き合っていたが、他の窓にちらりと人影が動いたのが見えて、慌てて離れた。

「・・・ありがと。楽しかった。」

「ああ!」

「本当に楽しかった。」

「作戦成功だろ。・・・成功報酬ってもらえるか?」

「あら、何が欲しいの?」

ちょっと首をかしげた沙織に、ふっと笑いかけた星矢は、すばやく唇を奪った。

「!」

「・・・じゃ、な。おやすみ。」

「・・・・。」

ぼーっと沙織は星矢を見上げるばかりだったので、星矢はくすっと笑ってまたキスした。

「足りた?」

「なっ!こっちのセリフだわ。」

「ふふん。それだったら、沙織さん寝られないぞ?」

「もーっ!しらない!もうっ、おやすみなさい!」

「へへへ!じゃな!おやすみ!」

ベランダからひょいと庭に飛び降り、振り返って沙織に手を振ると、次の瞬間には城戸邸から消えていた。

部屋に戻った沙織は、まだドキドキいっている胸をなだめながら、帰り着いたことを辰巳に連絡すると、パタリとベットに倒れこんだ。

「〜〜〜。キス・・・きゃ〜〜〜!」

沙織らしくなく、浴衣のままでゴロゴロと転げまわり、結局寝付けない夜を過ごすのだった。

 

 

 

おわり

 

 






後書 (と書いて、言い訳と読む)


この話の設定時期のことですが、最初はポセイドン戦の直後のつもりで書いてたんです。

ポセイドン戦のあと、沙織さんがサンクチュアリに入るまでには、少し日数があったと思うんですよね、多分。

いや、疲労困憊なので、即、聖域に入ったかもしれないけど。

で、今回は日数があったという考えでいくつもりだったのが、それだと、どうしてもすぐ間近にハーデス編が控えてるので、

沙織さんが暗く切なくなっちゃうかなーと思って、急遽やめました。

明るい感じのラブコメだから(ってコメディーになってないって)あんまりこだわらないほうが楽しいかなーとも思ったので・・・。

(だったらもっとラブラブラブにすればよかったナ。)

ハーデス戦のあと、星矢が生き返った後、って考えてもいいし、パラレルワールドって考えてもいいし。

切ない話が多いさおりんなので(切ないの大好きですよ!モアカムカム!)、ハッピーラブをどーんとかましてやろうじゃないの!

(下品ダナー)という勢いで捧げます。ホントに駄文で申し訳ないのですが。

こしさんのご好意に甘えて、ご迷惑をかえりみず、差し上げるしだいですv

ありがとうございました!

by えみさま           


こちらこそハッピーラブありがとうございます!えみさんのお話しは沙織さんが幸せそうで、見てるこっちも幸せになります〜v

by  こし       


 

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