<潮風のラブソング>


氷河の運転する車は、まっすぐ海を目指していた。窓から入る風が沙織の髪を優しく撫でて再び出て行く。沙織は先程から窓からの景色をずっと眺めていた。車内に流れる洋楽が耳に快い。
だが、実は内心、氷河も沙織も困っていた。
一体、何を話したらいいのだろう?


朝9:00ピッタリに迎えに来た氷河の車に乗り、沙織は屋敷を出た。海の方に行くということだったので、それに合わせて、水色のワンピースに白いサンダル、つばの広い白の帽子をかぶってみた。迎えに来た氷河の方は、白地のシャツの胸ポケットにサングラスを差し、ブラックジーンズという姿であった。


車に乗って1時間くらいは、これから行くお台場について、今かけている音楽について話をしていたが、あっという間に話題が尽きてしまった。

 参ったなあ・・・。
ずっと窓から外を眺めている沙織を横目に見ながら、氷河はハンドルを握っていた。このままじゃ、夜景まで間が持たない・・・。


「氷河、沙織さんとのデートはどこに行くの?動物園とか?」
「動物園なんて行かないさ。」
「どうして?氷河、休日によく行っているじゃない。白熊に会いに。」
「バカ、なんで瞬、そんなこと知っているんだ?」
「だって、氷河、『今日は、暑かったから白熊もバテていた。』とか『日本の動物園の白熊って可哀想だよな。』とか言っているからよく行っているんじゃないかと思って。」
「そ、そうか・・・。だけど、沙織さんを動物園に案内するのもどうかと思うぜ。」
「そう?じゃあ、どこに行くの?」
「海の方でも行こうかと。」
「お台場とか横浜とか?」
「ああ、車でお台場の方にでも行こうかと思っている。海見て、その辺ぶらぶらして、夜景見ながら食事というコースかな。」
「定番デートコースだね。でも、無理しない方がいいよ。」
「無理って?」
「自分が行き慣れてない所で、初デートするのって結構大変だよ。」
「大変?」
「氷河、お台場に行ったことある?」
「ないけど。」
「ただでさえ、相手のことをまだよく知らない初デートって気を遣うのに、場所まであまりよく知らないところだったら、デート中、ずっと気が休まる時がないよ。」
「沙織さんについては知っているじゃないか。」
「アテナとしてはね。でも、一人の女の子としての沙織さんについて知っている?」
「・・・そう言われてみると、知らないなあ。」
「それに、車で行くとなると、何時間も2人っきりでいるんだよ。何について話すの?」
「適当に、音楽や趣味について話をするよ。」
「そんなのすぐに終わっちゃうと思うんだけどなあ・・・。」


 くそっ、瞬の言った通りだぜ。それにしても何であいつ、よく知っているんだ。経験の差かなあ?

やっと目の前に海が見えてきた。
「沙織さん、海が見えてきたぜ。」
「あ、本当ねぇ・・・。」
 くっ、か、会話が終わってしまった・・・。

駐車場に車を止め、とりあえず海の方に2人は向かった。
ズボンのポケットに手を入れたまま黙々と歩く氷河。少し離れて後ろから沙織がついて来る。

「うわあ。あの金髪の人、カッコいい。モデルさんみたい。」
「後ろにいるの彼女かなあ。彼女も美人ね。でも、あんまり仲良さそうじゃないね。」
沙織の耳にこんな会話が聞こえてきた。無意識に目線が下に向いてしまう。

突然、前を歩いていた氷河が、ガシッと沙織の手を掴んだ。
「えっ?」
氷河はそのまま何も言わず、沙織の方も向かず、沙織の手を引っ張って足早にその場を離れた。
外の陽気は暖かいというのに氷河の手は氷のように冷たかった。

海岸近くになってようやく氷河は歩速を緩め、沙織の手を離した。
「突然、すみません。実は、俺にとっても今日が初デートなんです。だから、デートってどうしたらいのかよく分らなくて。」
氷河は海の方を向いたまま、沙織の方には顔を向けずに小さな声で言った。
「まあ、そうだったの?お台場に連れて行ってくれると言っていたから、デートに慣れているんだと思っていたわ。」
「いや、そもそもお台場なんて初めてです。瞬には慣れないことをするなと言われたんだが、せっかくデートするならと思って・・・。」
そう言って氷河は照れくさそうに頭を掻く。
「でもなんだかその方が嬉しいわ。男の人がすごく慣れていて、後からついて行くだけというのもつまらないもの。それに、お台場には一度来てみたかったの。もちろん、デートでね。」
「本当か?」
氷河は安心したような顔をして沙織の方を向いた。
「海、とってもきれいね。」
「ああ。きっと夜景もきれいだぜ。夜景まで見ていこうな。」
「ええ。」
氷河はそっと沙織の手を握った。まだ冷たい手だったけど、緊張感が薄らいでいくのを沙織は感じた。
(END)

あはは・・・(^^; こんなの書いてしまって良いのでしょうか?by綾乃川





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