「へえ、お嬢様でも泣くことがあるんだ。」

「誰?!」

ふりかえると、先日からおじいさまが預かっている孤児のひとりがいた。

「お前に私の気持ちなんてわかるものか!あっちへいけ!」

涙をふきながら、にらみ返す。

こんなときでも意地をはることだけは忘れてないらしい。

 

「俺にはお嬢様の気持ちなんてわからないね。人を馬にしたり、ムチで痛めつけたり。」

 

「・・・・・」

私には言い返す言葉がなかった・・。

 

「私は・・・私はお嬢様なんかじゃない!・・・」

「私はお嬢様なんかじゃなかった!おじいさまの孫ではなかった!私はこの世界でたったひとりなんだ!」

なぜだろう、なぜこんなことをよく知らないやつに口走ってしまったのだろう。

 

「・・・・・・・」

彼はびっくりしたような顔をして、すぐに何事もないような笑顔を取りつくろっていた。

「・・・な、なーんだそんなこと?

そんなの俺だって同じじゃん。俺には父もない母もない。

たったひとりいた姉とも引き離されてしまった。家だってない。

お前のようなおじいさまだっていない。」

「・・・・・でも俺は・・・」

 

「?」

 

瞬間、彼が何か思いついたようだ。私の手をひっぱる。

「お前、ついてこい!」

彼は私の手を強引に引いて走っていく。強く強くひいて・・・。

「痛い!・・・ねぇいったい何処行くの?!」

「黙ってついてこい!お前にとっておきの場所を教えてやるよ!」

「何?」

     ・・ゼイゼイいいながら私は彼にひっぱられて、城戸邸の林の中をかけぬける。

私はまたしても城戸邸の広さを思い知らされていた。

「ねえ?痛い痛いよ!離して!」

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